「お腹から声を出す」に疑問を持つ

「お腹から声を出しましょう」こんな言葉を聞いたことはありませんか?
音楽の授業や、ボイトレのレッスンで言われたことがあると思います。
私が通っていた中学校の体育祭では、応援合戦というものがありました。
大声自慢の人たちがクラス対抗で応援を競う催しなのですが、応援の練習中にはよく、「お腹から声出して!」というような注意が飛んでいました。

注意された人たちは、手を後ろに組んで、仰け反りながら必死に声を出していました。
そして大切な応援合戦当日には、みんな見事に声を枯らしているのです。もうガラガラです。
「お腹から声を出す=力いっぱい大きな声を出すこと」だと、誤解している典型的な例です。
正しくお腹から声を出していたら、声は枯れません。
今回は「お腹から声を出す」というテーマで書いていこうと思います。

イメージの弊害は大きい

腹式呼吸についてお話ししたときにも書きましたが、お腹という言葉はイメージを混乱させる作用を持っています。
お腹はどこですか?と言われると、大体の人はお臍のあたりを指します。
その辺りには、腸などの臓器が入っています。
ここで大切なことは、それらの臓器から声は出てこないという事実です。
声は声帯が出発点なのです。
しかしお腹から声を出すと言われると、あたかも声の出発点がお腹のような気がしてしまいます。これが、イメージの混乱を招く原因です。

ボイトレのお腹はインナーマッスルのこと

お腹で声を支えるとか、お腹から声を出すと言われたときに指している部位は、インナーマッスルのことです。
手で触れられる、表面上のお腹ではないのですね。
歌の先生やボイトレの先生たちは、その道のプロです。
ですから、お腹=インナーマッスルということが、共通認識としてあります。
なので、生徒さんたちもお腹って言えばわかると思っている節があるのですよ。
でもそれは一般的ではない。
お腹から声を出すという指示は、言葉だけが一人歩きしているような印象を受けます。

目に見えないものをコントロールするのは難しい

表面上のお腹は、肉眼で確認できますし、触れます。
ですから、力を入れて硬くすることも、リラックスして柔らかくすることも簡単にできます。
でもインナーマッスルは、体の中に隠れていて、触ることができません。
直接目で見ることも、触れることもできないので、イメージしづらいという難点があります。
目に見えない筋肉をコントロールするのは、とても難しいことです。
だからこそ、レッスンに通ったり、練習を重ねたりする必要が出てくるのですね。
そして、体のコントロールの仕方を教えるには、身体の構造に対する知識と実演して見せられる技術の両方がなくてはいけないのです。

お腹はブレスコントロールの要

発声におけるお腹の役割は、ブレスコントロールです。
声の素は空気の振動なので、息は声の燃料だと思ってください。
車は低燃費の方がいいですよね?歌も同じです。
どんなにたくさんの燃料があっても、一気に使ってしまったら、車は長距離を走ることができません。
どんなに肺活量があっても、息のコントロールができていないと、息が足りないという状態になります。
このブレスコントロールを行う筋肉こそが、お腹にあるインナーマッスルの役割なのです。
お腹から声を出す=お腹のインナーマッスルを使って、ブレスコントロールをすること。
ぜひこのことを心に留めて、ボイトレや歌の練習をしてみてくださいね。

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