漢字から受けるイメージが誤解を招く

腹式呼吸という言葉はご存知ですか?
歌やボイトレ以外でもヨガや瞑想など、さまざまなところで見かけるこの言葉。
一度は耳にしたことがあると思います。
では、腹式呼吸を正しくできますか?
お腹を一生懸命使って、息をしようとしていませんか?
私は以前から、漢字表記から受けるイメージのせいで腹式呼吸が誤解され、難しいものだと思われているのでは?と疑ってきました。
今回は、誤解されがちな腹式呼吸について書いてみようと思います。

やってしまいがちな腹式呼吸の過ち

「腹式」と書くくらいだから、たくさんお腹を動かせばいい!
そう思ってお腹を膨らませたり凹ませたりを、一生懸命にやっている人がいます。
お腹に空気を入れようとしているんですね。
実際にやってみるとわかるのですが、お腹を膨らませる意識で呼吸をすると体が硬くなりませんか?
どこかぎこちなくて、この呼吸で歌えるの?と不安になります。
ここで疑問を持てればいいほうで「自分の訓練が足りないからだ!」と思って、真剣にお腹に空気を入れようとしている場合もあります。
これではいつまで経っても、呼吸が苦しいままです。

腹式呼吸とは

まずは腹式呼吸について調べてみましょう。辞書で調べると、このように出てきます。

ふくしきこきゅう【腹式呼吸】
主として横隔膜の伸縮によって行う呼吸法。腹呼吸。↔︎胸式呼吸。

広辞苑

お腹に空気を入れるとは、書いていませんね?ここがポイントです。
そう、お腹に空気を入れているわけではなかったのです。
さらに横隔膜というワードが出てきました。とても重要な筋肉なので、横隔膜についても引用しておきます。

おうかくまく【横隔膜】
哺乳類の腹腔と胸腔とを境する筋肉性の膜。上面は心臓・肺に、下面は胃・膵臓・肝臓などに接する。横隔神経に支配されて収縮・弛緩し、肺の呼吸運動を行う。

広辞苑

ここで注目してほしいのが、「肺の呼吸運動を行う」という記述。
冷静に考えてみてください。
口や鼻から吸った空気は、どこに入りますか?人体の構造上、吸い込んだ空気は肺へと向かいます。
にもかかわらず、腹式呼吸をしようとすると、お腹を膨らませようと頑張る方が多い
これではリラックスなど、できるはずがないのです。
でも深い呼吸をすると、自然とお腹が膨らみますよね?
その仕組みを理解するために必要なのが、肺と横隔膜の知識です。

呼吸でふくらんだ肺が横隔膜を押し下げる

腹式呼吸をするとお腹が膨らむのは、空気が入ってふくらんだ肺に、横隔膜が押し下げられた結果です。
お腹が膨らむのは、結果でしかありません。
辞書で調べた記述に、「横隔膜は横隔神経によって支配されている」とあります。
つまり、人が食べ物の消化や心臓の動きを自分の意志でコントロールできないのと同じで、横隔膜もまた、自分の意志では動かせないものなのです。

呼吸で肺がふくらむ

横隔膜が押し下げられる

お腹が膨らむ

腹式呼吸を理解して楽な呼吸を手に入れる

正しい呼吸のプロセスを理解すれば、自然と楽な呼吸ができるようになります。
レッスンをしていて、「肺はどこにありますか?」と質問すると、みなさん胸を指します。
でも、「腹式呼吸では、どこに空気が入りますか?」と質問すると、お腹といいます。
これが腹式呼吸を難しくしている所以です。腹式とはいいますが、空気は肺に入るのです。
浅い呼吸は体だけでなく、心にも影響を及ぼします。
腹式呼吸を、心身の健康維持に役立ててもらえたらと思います。

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